太刀魚を食べる文化はどちらかといえば関西に根強いため、関東ではあまり馴染みがないかもしれません。それでも近所のスーパーでは切り身で売られている様子はしばしば確認でき、比較的手頃な価格で購入でします。しかし、同じ太刀魚でも、大きさが変わると値段はまるで別物になります。太刀魚は「サイズで化ける魚」。その価値のからくりを見ていきましょう。
身近な魚、でも大物は別格
太刀魚はもともと、流通量も多く価格も比較的手頃な、家庭の食卓にも上がる魚です。けれど大型になるほど脂がのる傾向があり、味も見栄えも、そして値段も跳ね上がっていきます。同じ魚でありながら、サイズ次第で「手頃な惣菜魚」から「料亭の一皿」までを行き来する――これが太刀魚の面白さであり、価値のからくりです。
大型が高く評価される背景には、いくつか理由があります。ひとつめはなんといってもその食味の良さ。大型の太刀魚の脂のノリと滲み出るような旨みの強さが本質です。ふたつめは銀の美しさ。傷の少ない良型を丁寧に獲る延縄(はえなわ)漁でとられ、輝きが保たれた個体は見た目にも高級感があり、寿司店や料亭で重宝されます。ブランド級として扱われ、市場で驚くような高値がつくこともあります。三つ目が鮮度落ちの早さ。身がやわらかく傷みやすいため、状態の良い大型は市場に出回りにくく、それだけ希少になります。夏場は適切に処理しないとお腹の身がすぐに傷んで破けてしまいます。
実際いくらするの?イセエビより高い大型太刀魚
これがどの程度の金額かわかりますか? 例えば、イセエビ。一般のお客さんが購入できる市場や通信販売などでは、大体1キロあたり10,000〜12,000円程度が通常の相場だと思います。スーパーで買えるA5和牛ではどうでしょう。サーロインの単価はキロあたり10,000円前後で売られていることが多いです。ポイントは、これは小売価格であることです。
つまり、漁師さんや畜産業者がおろして、市場などのさまざまな流通経路を挟んで最終的に私たち消費者が購入可能な小売店に並んだ時の最終価格が特大太刀魚の卸値のちょっと上。ということは、太刀魚の最終価格はいくらになっているのか?実際に特大サイズが売られているところや超高級料亭で食事をしたことはないので、最終的な単価はわかりませんが、ドラゴンサイズが釣れた時はその塩焼き一切れでも1万円の価値がある一皿になっていると考えるとまた今までとは違った味わいがあるかもしれませんよ。
同じ一尾でも、立場によってものさしが違うのが太刀魚の面白いところです。
FISHERMAN
市場・流通の価値基準。延縄でとれた大型ほど脂がのり、キロ単価も跳ね上がる。「重い=高級」の世界。
ANGLER
遊漁の語彙。背の幅を指の本数で表し、指3〜5本、さらに大きな「ドラゴン」級が釣り人の誇り。
つまり太刀魚は、商業的な価値(重さ)と、釣り人の達成感(指の本数・長さ)という二つのものさしを同時に持つ、ちょっと特別な魚なのです。「手頃な魚」という第一印象の裏に、こんな奥行きが隠れています。