タチウオテンヤでは、「今日は紫がいい」「赤金に反応する」「ピンクが強い」といったカラーの話をよく耳にします。自分自身もこれまで当然のようにテンヤの色を意識してきましたが、以前から一つ疑問がありました。そもそも深い海の中で、タチウオにはその「色」が本当に見えているのでしょうか。今回は東京湾のテンヤタチウオを例に、水深、透明度、日照、光の波長、グロー、ケイムラという観点から考えてみます。
QUESTIONテンヤの「色」は本当に見えているのか
タチウオテンヤではカラーによる釣果差がよく語られます。「紫に替えたら食った」「今日は赤金の日だった」という経験は、自分にもあります。ただし、カラーを替えたら釣れたことと、タチウオがその色を人間と同じように認識して選んだことは同じではありません。
赤と紫は本当に赤と紫として見えているのか。白や銀は深場でも強く反射しているのか。黒はシルエットとして目立つのか。そしてグローやケイムラは、普通のカラーと同じ「色」として扱っていいのか。これを考えるには、まず水中の光から考える必要があります。
LIGHT色を見るには、まず光が必要
テンヤの赤や紫は、自分でその色の光を出しているわけではありません。外から来た可視光がテンヤに当たり、その一部が反射して魚の目に届くことで初めて色として成立します。つまり、可視光 → 通常塗料(反射) → 可視光 → タチウオの目という流れです。
これは赤や紫だけではありません。白や銀の反射も、黒のシルエットも、普通の緑色の塗装も、すべて周囲に光があることが前提です。だから「どの色が一番見えやすいか」を考える前に、そもそもタチウオがいる水深に、テンヤを照らすだけの自然光が残っているのかを考える必要があります。
DEPTH水深が深くなるほど光は急激に減る
水中に入った光は、水深とともに急激に弱くなります。しかも減り方は一定ではなく、指数関数的に減少します。透明度と光の減衰を結びつける近似の一つとして、消散係数KをK ≒ 1.7 ÷ 透明度とする考え方があります。
この係数は水質によって変わるため、ここから出す数字は東京湾50mの実測値ではありません。あくまで、その透明度の水が続いた場合に「どのくらいの桁まで光が減るか」を考えるための目安です。仮に透明度3mとして単純計算すると、次のようになります。
| 水深 | 海面の光に対して残る割合 |
|---|---|
| 5m | 約5.9% |
| 10m | 約0.35% |
| 20m | 約0.0012% |
| 30m | 約0.000004% |
| 50m | 約0.00000000005% |
水深50mでは、単純計算上、海面の光の約2兆分の1です。もちろん実際の東京湾の光量が常にこの数字になるわけではなく、透明度、潮色、日照、季節、場所などによって大きく変わります。ただし重要なのは正確に何兆分の1なのかではなく、濁った水の中を50m進めば、自然光が桁違いに弱くなるということです。
REAL VIDEO実際に沈めると20mを超えた辺りからほぼ真っ暗
これは以前、東京湾で実際に水中カメラを沈めて撮影した映像です。
カメラとタチウオの目は当然違い、タチウオは人間や一般的なカメラよりも暗い環境に適応している可能性が高いです。それでも、この映像を見ると、水深50mで地上と同じように赤、紫、ピンクといった色を見分けている、と考えることにはかなり違和感があります。
COLOR「赤く見えるか」以前の問題ではないか
水中では赤い波長が早く失われるため、「深場では赤いルアーは赤く見えない」という説明をよく見ます。もちろん波長による減衰の違いはありますが、濁った東京湾の水深40〜50mを考えると、自分はその一段手前の問題の方が大きいと思っています。赤い光が残っているか以前に、自然光そのものがほとんど残っていないのではないか。
自然光が海面の何千億分の1、何兆分の1というレベルまで減っているなら、「赤は何色に見えるのか」「紫はどう見えるのか」という話自体がかなり怪しくなります。どれだけ暗所に強い目でも、目に入ってくる光そのものがなければ情報は作れません。まして、単に物体の存在を感じるだけでなく、細かな色の違いを識別するには、さらに多くの光情報が必要になります。
WAVELENGTH波長によって水中での減り方は違う
光はすべて同じように水中で減るわけではありません。赤系、青系、緑系、紫外線では、水中での吸収や散乱のされ方が違います。
赤系の光は浅い場所で急速に失われます。青は澄んだ外洋では比較的深くまで届きますが、東京湾のような沿岸水では、懸濁物や溶存物質の影響を強く受けるため、外洋ほど単純には残りません。その中で比較的残りやすいのが、緑〜青緑付近です。
一方で紫外線は、沿岸水に含まれるCDOM(色のついた溶存有機物)や、色素、デトリタスなどによって減衰します。日本の沿岸水を調べた研究では、305、320、340、380nmのUV域において、CDOMが年間平均で吸収の47〜59%を占める主要因だったと報告されています。また、植物プランクトン由来の色素やデトリタスなどの粒子成分も吸収に寄与します。[出典:Kuwahara et al., Photochemistry and Photobiology, 2000]
つまり、沿岸の濁った深場では、赤も、青も、緑も、UVも、最終的にはかなり弱くなる。その中で相対的に緑〜青緑が残りやすい、という話です。
VISIONタチウオの目は青緑〜緑付近に強い
ここで面白いのがタチウオの視覚です。2025年に発表されたタチウオ Trichiurus japonicus の視覚研究では、ロドプシンRH1と緑オプシンRH2が確認され、それぞれの最大吸収波長は約490nmと507nmと推定されています。さらに、網膜の視細胞層には単錐体細胞と、5〜6層に重なった桿体細胞が確認されています。研究では、こうした構造からタチウオが薄暗い環境に適応し、RH1とRH2を使った視覚を機能させている可能性が示されています。[出典:Miyazaki et al., Fisheries Science, 2025]
490〜507nmは青緑〜緑付近です。つまり、光が存在する状況であれば、タチウオは青緑〜緑付近の光を効率よく利用できる可能性があります。ただし、490〜507nm付近に感度が高いことと、水深50mでも普通の緑色のテンヤがよく見えることは別です。普通の緑色塗装も、外から来た可視光を反射して初めて見えます。
THREE TYPES通常色・ケイムラ・グローは仕組みが違う
ここまで考えると、テンヤのカラーを全部同じ「色」として扱うこと自体に少し無理があります。通常色、ケイムラ、グローでは、魚に光が届くまでの仕組みが違うからです。
NORMAL COLOR通常色は可視光を反射して初めて見える
普通のカラーは、可視光 → 通常塗料(反射) → 可視光という仕組みです。赤、紫、ピンク、白、銀、黒、普通の緑も、外から来た光があって初めて見えます。
白や銀は反射率が高いから目立つ、という話もありますが、反射はあくまで入ってきた光を返す現象です。入射光そのものがほぼ無ければ、反射率が高くても返せる光はごくわずかです。黒のシルエットも同じで、黒がシルエットとして見えるには、その後ろに明るい背景が必要です。自然光がほぼ無くなれば、その効果も小さくなると考えた方が自然です。
UVケイムラは「蓄光」ではない
ケイムラは紫外線、つまりUVを受けることで可視光を蛍光として出します。仕組みとしては、UV → ケイムラ塗装(蛍光物質) → 可視光です。
ここで注意したいのが、「ケイムラ発光」という言葉です。商品説明などでは「ケイムラ発光」と表現されることがあります。物理学的には蛍光もPhotoluminescence、つまり発光現象の一種なので、「発光」という言葉自体が間違いというわけではありません。ただし、釣具でいうグローのような蓄光とは仕組みがまったく違います。ケイムラは蓄光して暗闇で自ら光り続けるものではなく、UVが当たっている時だけ蛍光発光します。
そして、その励起源となるUV自体が沿岸水では減衰しやすいことが分かっています。日本の沿岸水では305〜380nmのUV域でCDOMが主要な吸収要因となり、色素やデトリタスなども吸収に寄与することが報告されています。[出典:Kuwahara et al., Photochemistry and Photobiology, 2000] そのため、UV自体が届きにくい濁った深場では、ケイムラの働きも弱くなると考えられます。
GLOWグローは自分自身が光源になる
グローは通常色やケイムラとは仕組みが大きく違います。明るい場所で光のエネルギーを蓄え、それを暗い場所で徐々に放出します。つまり、蓄光 → 自発光です。自然光がほとんど残っていない場所でも、テンヤ自身が光を出せます。
さらに一般的な緑系グローは青緑〜緑付近の光を出します。そこにタチウオの視覚感度が490〜507nm付近にあるという研究結果を重ねると、自然光が非常に少ない場所で、タチウオが感知しやすい波長付近の光をテンヤ自身が出しているという構造になります。自分が深場でグローを重視する理由は、「緑色が釣れるから」というより、こちらです。
THREE FACTORS色の意味を決めるのは「水深 × 透明度 × 日照」
ただし、「深場なら常にカラーは意味がない」という話でもありません。水中にどれだけ光が残るかは、大きく水深 × 透明度 × 日照の3つで変わります。
まず水深。10mと50mでは、同じ潮でも自然光の量が大きく違います。次に透明度。同じ50mでも、濁った潮と、たまたま透明度の高い潮が入った日では水中光環境がまったく違います。そして日照。真夏の晴天の正午と、厚い雲に覆われた朝夕では、そもそも海面から入る光量が違います。
つまり、浅い・澄んでいる・晴天ほど、通常カラーやケイムラを考える意味が大きくなります。逆に、深い・濁っている・曇天ほど、普通のカラーとケイムラは見えにくくなります。
CLEAR WATER東京湾でも澄んだ潮が入れば話は変わる
東京湾は基本的には沿岸水の影響を強く受ける海ですが、いつも同じ透明度ではありません。外から澄んだ潮が入り、「今日はずいぶん澄んでいる」と感じる日もあります。そういう日は、同じ水深でも自然光がより深くまで残ります。
さらに魚が浅く、日差しも強ければ、通常カラー、白や銀の反射、黒のコントラスト、ケイムラなどを考える意味も大きくなります。つまり、「テンヤの色に意味があるか」という問いに、YESかNOだけでは答えられません。その日の水深、透明度、日照によって、色が成立する条件そのものが変わるからです。
MY CHOICEだから私はテンヤのカラーをこう考えている
こう考えるようになってから、自分はテンヤのカラーを「今日は赤か紫か」というだけでは選ばなくなりました。まず見るのは、魚の水深、潮の濁り、その時間帯の日照です。東京湾で40〜50mを狙う時は、まず「自然光はかなり少ないだろう」という側から考えます。
その条件では、赤から紫に替えることよりも、非グローからグローに替えることの方を大きな変更として考えています。さらに言えば、全面グローなのか、部分グローなのか、ほぼ発光しないのかという違いの方が、深場では重要なのではないかと思っています。
特に深く、潮が濁っていて、日差しも弱い条件では、緑系グローを一つの基準にしています。これは単純に「緑色が釣れる」と考えているからではなく、自然光に頼らず自ら発光でき、その光がタチウオの感度が高い490〜507nm付近に近いからです。
逆に、赤、紫、ピンクなどの細かな色相差については、濁った深場ではそこまで強く意識していません。少なくとも、「紫を見切られたから赤にしよう」という考え方はあまりしていません。一方で、魚が浅い、いつもより潮が澄んでいる、日差しが強いという方向に条件が揃えば、通常カラー、白や銀の反射、黒のコントラスト、ケイムラも選択肢として重く見ます。
SUMMARY「今日は何色か」ではなく「今日はどれだけ光があるか」
結局、自分がテンヤのカラーについて一番気にしているのは、「今日は何色が釣れるか」ではなく、「タチウオがいる場所に、どれだけ光があるのか」です。普通のカラーは可視光を反射して初めて見える。ケイムラはUVを受けた時だけ蛍光発光する。グローは蓄えたエネルギーで自ら光る。この3つは、そもそも仕組みが違います。
だから普段の東京湾で40〜50mを狙うような状況では、赤か紫かという色相差より、まずグローの有無を大きく考える。ただし、たまたま透明度の高い潮が入り、魚が浅く、日差しも強い時には、通常カラーやケイムラの意味も大きくなる。自分の中では、水深 × 透明度 × 日照を見ながら、その日に「色が成立するだけの光」があるのかを考えるようになりました。
もちろん、これは条件を完全に揃えて実釣比較した結果ではなく、光の性質とタチウオの視覚研究から考えた自分なりの仮説です。ただ、テンヤカラーを選ぶ時に一度、「その色を見せるための光は、そこにあるのか?」と考えてみる。赤か紫かを選ぶ前に、そこを考える方が自分にはしっくりきています。
REFERENCES参考文献
- Miyazaki T, Ohshima H, Meyer-Rochow VB. Largehead hairtail Trichiurus japonicus vision adaptation to dim light conditions. Fisheries Science. 2025;91:747–761. https://doi.org/10.1007/s12562-025-01877-3
- Kuwahara VS, Ogawa H, Toda T, Kikuchi T, Taguchi S. Variability of bio-optical factors influencing the seasonal attenuation of ultraviolet radiation in temperate coastal waters of Japan. Photochemistry and Photobiology. 2000;72(2):193–199. PubMed
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