TACKLE / TECHNOLOGY / PATENTS
Oct 22, 2026 · @ryoma tanigome
最近、金属穂先について考える機会がありました。せっかくなので、前から気になっていた電動リールのジョグ vs タッチドライブのことも合わせて、とことん調べてみました。
電動リールの操作方法や金属穂先の登場時期は、釣り人の好みだけでなく、ダイワとシマノの特許にも左右されてたんだろうというのは何となく聞いたことがありましたが、この記事では、J-PlatPat(日本の特許情報)の公報・経過情報・審決と裁判所の判決文をもとに、二社のライバル関係を竿と電動リールに分けてまとめてみました。特許や裁判の事実は公開資料にもとづいていますが、そこから先の読み解きは、あくまで一釣り人としての私の考えです。なお、私はダイワ派というわけではなく、手元にはダイワとシマノの道具が同じくらいあります。どちらかの肩を持つつもりはありません。
と言っておきながら、私には忘れられない電動リールがあります。子どもの頃に塾のテストで好成績を取り続けたら買ってやるという条件で手に入れた、ダイワのスーパータナコンX500CPです。私の能力のピークは小学生でした、はい。
レバーを倒すと巻き上げが速くなり、戻すとゆっくりになる。そのわかりやすい感覚的な操作と当時としては小型化されたボディに小6の私は未来を感じました。このリールを使い、三保や沼津@静岡県のコマセマダイを父親とやっていました。
それから20年。2016年当時も大活躍しました。子どものお食い初めのマダイをこのX500CPを使い、初めてのタイラバで釣り上げました。こんな重たいリール使うなら手で巻けよって話ですが、自分が子供の頃に使っていたマダイを釣るための道具で、自分の子供のためにマダイを釣ることに意味があると考え、しかもラスト5分で奇跡的に釣れた会心の一撃だったのでとても記憶に残っています。そして、30年経った今も動きます。

電動リールの入り口がこのリールだったので、ずっと気になることがありました。なぜシマノの中型以下は、ボタンを押して速度を変える「タッチドライブ」で、ダイワのようなジョグダイヤルではないのか。そして、もう一つは、タチウオの釣りをメインにする私にとって、なぜシマノの金属穂先は2026年になって初めて登場したのかの2点です。
FROM LEVER TO JOGレバーからジョグへ:ダイワの操作系の30年
電動リールの速度操作は、「置き竿で切り替えるもの」から「竿と一緒に握った親指で操るもの」へと変わってきました。
表1:ダイワ電動リールの操作の移り変わり(レバーからジョグへ)
| 年 | 出来事 |
|---|---|
| 1988〜1991 | ダイワ「タナコン」SS・GSシリーズ。大型で、竿を船縁に置いて使うのが中心 |
| 1991 | ダイワが「単一のレバーで停止から最大まで」の特許を出願 |
| 1993頃 | 「スーパータナコン」登場。この頃にパワーレバー搭載シリーズが登場(判決文の認定)。リールはまだ両手で支える大きさ |
| 1995 | 思い出のスーパータナコンX500CPもこの年の発売。パワーレバーで巻き上げ速度を変える |
| 1998〜1999 | シマノが手持ち釣り向けの小型電動を発売。ダイワもスーパータナコンX300Wを「ベイトリールと同じ感覚」として発売 |
| 2004 | ダイワが小型電動の「手持ちコンセプト」を提案。シマノは電動丸1000Hなどに「テクニカルレバー」を搭載 |
| 2011 | ダイワがジョグパワーレバーを投入。同年に左巻きのシーボーグ300MJ-Lも発売 |
レバーは「どこまで倒したか」で速度が決まるので、感覚で巻き取りを操作できます。ジョグはその考え方を、竿を握ったままの親指で回せる形に進化させたものと言えそうです。どちらも「ダイヤルの位置がそのまま速度になる」という点で、同じ流れにあるように感じます。
REEL PATENTSリール:レバー、ジョグ、そしてタッチドライブ

最初に、リールの特許で「何が守られているのか」を、実際の釣り道具のどのパーツにあたるのか対象を示しておきます。ダイワが今も持っている権利は、ざっくり言うと「巻き取り速度を変えるつまみの形と付ける場所」の様です。リールを片手で握ったまま、親指で転がして速度を細かく変えられる丸いつまみを、スプールの中央あたりに付け、まわりをへこませて手探りでも場所が分かるようにする。そういう「ジョグの使い勝手そのもの」が、私の理解では特許で守られている部分です。一方、シマノは「押す強さで速度が変わり、増やす・減らすの2箇所を押し分け、指を離してもその速度が続く」という、タッチドライブの操作の仕方を守るものです。
ダイワは巻き取り速度操作の特許でシマノを2度訴えたものの、どちらも認められなかった様です。ただ、親指で転がすダイヤルの特許は2031年まで有効で、シマノはその裏で別の操作方法となる、ボタンの押圧式(タッチドライブ)を育ててきたように見えます。
表2:電動リールの速度操作をめぐる特許と裁判の流れ
| 年 | 出来事 |
|---|---|
| 1991 | ダイワ精工が「単一のレバーで停止から最大まで連続的に調節する」電動リールの特許を出願(特許3294820) |
| 2005〜2006 | ダイワがシマノの電動丸1000Hなどを提訴。東京地裁は「範囲外」かつ「特許は無効にされるべき」として棄却。特許は無効審判で消滅 |
| 2010〜2011 | ダイワが親指で転がす円筒ダイヤル(ジョグ)の特許をまとめて出願(中央型の5698066と、そこから分割された5885316。フォースマスター型の5939749と、そこから分割された5641623・5641624・5641625・6368334、さらに6368334から分割された6329674・6329675) |
| 2015 | ダイワがシマノのフォースマスター400(リール側面の、親指で転がすダイヤル)を提訴。賠償3,850万円と差止めを請求 |
| 2016年4月15日 | 地裁判決の前に、シマノが圧力センサーで速度を変える「押圧式」の特許を出願(6758073・6758074) |
| 2016年9月 | 東京地裁でシマノが勝訴。「製品は特許の範囲に入るが、特許に進歩性がない」との判断 |
| 2016年10月25日 | シマノがタッチドライブ本体の特許を出願(6890399) |
| 2017年3〜11月 | 知財高裁でもシマノが勝訴。訴えられた特許3件は無効確定。ダイワは親特許5939749を訂正審判で「片手で握れるリールの、フォースマスター300・400と同じ位置にある、少しだけ飛び出して周りがへこんだ、親指で転がすダイヤル」に絞って存続 |
| 2018 | フォースマスター600でタッチドライブ登場 |
| 2019年7月17日 | シマノが「中間速で頭打ちにする」特許を出願(7330001)。NEWタッチドライブとして搭載 |
| 2031年4〜7月 | ダイワのジョグ系特許3件(5698066・5885316・5939749)が満了予定 |
有効なダイワの特許は、ダイヤルの置き場所で二つに分かれます。
中央型(5698066・5885316):左右の側面の間、スプールが見える開口のすぐ後ろに円筒ダイヤルを置くもの。今のジョグパワーレバーにあたり、シマノと争われたことはありません。
フォースマスター型(5939749、訂正後。分割の6368334・6329674・6329675):昔のフォースマスター300・400でダイヤルが付いていた、あの位置です。特許の条件としては、片手で握れる大きさ、表示部付きの制御ケース、スプールの前端と後端の間の位置、親指の腹で転がす、突出0.5〜12mm、周りをくぼませて指で位置が分かる。このすべてを満たすリールが対象です。使いやすいダイヤルなら備えそうな要素が多く、外すのは簡単ではなさそうです。分割の3件も同じ位置のダイヤルが対象で、「設定ボタンを親指の届くところに置く」「スプール後ろのクラッチと組み合わせる」など、条件の組み合わせを変えて同じ場所を守っているように読めます。

私なりに整理すると、シマノは裁判には勝ちましたが、親指で転がすダイヤルは「フォースマスター300・400の位置」も「中央」も、2031年までダイワの特許に関わる状態が続いています。
TOUCH DRIVEタッチドライブは「選ばれた」のか、「それしかなかった」のか
個人的には、タッチドライブが操作系として一番良い形だとは思えていません。それでもシマノが作り続けているのは、「ジョグを作りにくい事情」と「自社の独自性」の二つが重なっているからではないか、と今回の特許を調べた結果として、私は改めて感じたところです。
押す強さによる巻き速度調整のメリデメ。初めて使った時は便利だなと感じました。一方で、それなりに慣れないと魚が掛かって竿を握る手に力が入った時に、慌てて親指の力も強くなりがちです。また、上下についたボタンのどちらを押すのかも余裕がないと間違えることがあります。ブレーキとアクセルを間違える事故そのものです。すると意図せず巻き上げが速くなり、バラシや竿への急激な負荷につながることが起こります。実際に竿先に糸が絡んだ時や高切れ後のゼロ設定忘れに気づいて慌てた際の咄嗟の誤操作により、巻きすぎて竿を折った人を船上で何度も見てきました。
シマノもこの点は意識しているのかもしれません。2019年出願の特許7330001は、押したときの出力を「中間出力」で頭打ちにする仕組みです。シマノの公式記事でも、反射的に強く押しても全開にならず、バラシを抑える機能と紹介されています。
ジョグを作りにくい事情。 シマノは一度、旧フォースマスター400/300で親指で転がすダイヤルを出しています。そこで訴えられ、裁判の最中に押圧式の特許出願を始め、勝訴したあともダイヤルには戻っていません。残ったダイワの特許を避けた結果と考えると、流れに筋が通りそうです。ただし、シマノがそう説明した資料は無いのであくまで想像ですが。
独自性。 一方でシマノは、押圧式を自社の特許(2016年、2019年出願)で固め、「タッチドライブ」という名前でブランドの顔にしてきました。2031年にダイワの特許が切れても、ここまで育てたボタン式の操作系をすぐに手放すことはないのかもしれません。

ちなみに、シマノの大型機は今も「テクニカルレバー」です。レバー式は1991年のダイワ特許が無効になっていて、自由に使えます。実際に発売された歴代の製品をみると、使いやすさだけでなく、特許も操作系の形を左右してきたように感じます。
METAL TIP竿:金属穂先は特許が切れるたびに広がってきた
竿について。特許で守られている要素がリールよりわかりにくかったので、まずは前提となる専門用語や技術が使われている構造を理解する必要がありました。昔のダイワの特許が守っていたのは、「穂先の芯に、曲げても折れずに元に戻る金属を使う」という、金属穂先の考え方そのものでした。この特許は切れています。今も生きているのは、「金属の芯と周りのカーボンをしっかりくっつけるための芯の下ごしらえ」と、「筒状(中空)の金属の穂先を竿に差し込んで継ぐつなぎ方」という、より細かい作り方の部分です。一方でシマノの特許は、金属穂先の先端に糸を通すガイドをどう付けるか、という部分でした。
チタン合金の芯をカーボンやグラスで覆う、SMTの基本的な構造については、ダイワが1999年に特許を出願していました。その特許が2018年に消滅した約2か月後に、アルファタックルが金属穂先の竿を出している?確認出来た情報が少なかったので、間違ってたらすみません。
表3:金属穂先をめぐる特許と各社参入の流れ
| 年 | 出来事 |
|---|---|
| 1999 | ダイワが「超弾性合金の中実の芯+外側の低弾性素材」の特許を出願(3716136)。カーボンで巻く構造も含む |
| 2002 | シマノも超弾性合金の穂先を出願(4022124)。審査でダイワの特許が引用され、「トップガイドの付け方」に絞って登録 |
| 2004 | ダイワが芯と外層の間に樹脂リッチ層を挟む改良特許を出願(4197162・4285745)。同年、極鋭カワハギシリーズ発売 |
| 2012 | ダイワ(グローブライド)が「中空の金属管の穂先を穂持ちに差し込んで継ぐ」特許を出願(5982258、2032年まで有効) |
| 2018年9月 | ダイワの基本特許3716136が消滅(年金不納) |
| 2018年11月 | アルファタックルが形状記憶チタン合金のCTSを搭載したカワハギ竿を発売(釣具店ブログによる) |
| 2021 | シマノの特許4022124が消滅。製品化されないまま14年分の特許料が支払われていた? |
| 2021 | ダイワが「芯の表面に酸化膜を作り、直接CFRP(炭素繊維を樹脂で固めた素材で、いわゆる竿の「カーボン」)を巻く」特許を出願(7466873、2041年まで) |
| 2023 | 2004年出願のダイワの改良特許2件(4285745が4月、4197162が10月)が消滅(年金不納) |
| 2026 | シマノが初の金属穂先「タフテックメタル」を発売(超弾性合金のソリッド、氷点下対応をうたう) |

今も有効なダイワの金属穂先の特許は、「酸化膜+CFRP」(7466873、2041年まで)と「中空の金属管の穂先を差し込んで継ぐ方法」(5982258、2032年まで)の2件です。チタンの芯を樹脂やグラスを挟んでカーボンで覆う、昔ながらの構造は、今はどのメーカーでも作れる状態です。
BEYOND THE PATENT竿の考察:特許が切れても、ノウハウは残る
シマノは2002年に自社の特許を取りながら、20年以上金属穂先を出しませんでした。特許は「他人に使わせない権利」で、「自分が自由に使える権利」ではありません。芯+外層という基本構造はダイワの1999年の特許に含まれていたので、自社の特許があっても製品化は難しかったのかもしれません。
ただ、これは私の感じ方ですが、シマノの参入は基本特許が切れてから8年後で、特許だけでは説明しきれないように思います。ダイワはSMTの難しさを「成型の難しい超弾性チタン合金を極細に削り出す工程」にあると説明しています。特許が切れても、こうした加工のノウハウは公開されません。後から参入する側は、そこを自力で詰めていく必要がありそうです。
リールの構造は図面と実機を見れば何とかなりそうですが、竿に求められる材料の加工技術は奥深さが何段階も違いそう。
さらにダイワは、2021年の酸化膜の特許で、中間層をなくした軽量・高感度の構造を2041年まで押さえています。シマノが使えるのは、中間層を挟む従来型の構造になりそうです。その上でシマノは、「氷点下でもクセがつきにくい」特別な素材を打ち出しました。ダイワは自社のメタルトップについて、低温では弾性が落ちると注意書きしている点を踏まえて、構造より合金の選び方で差をつけようとしたのかもしれません。
個人的には、この狙いがうまくいくかは耐久性しだいだと思います。氷点下対応のための組成や熱処理が、常温での強さと両立できているかは、発売から数か月の今はまだ分からないところです。
ちなみに余談ですが、医療機器向けの研究では、超弾性のニッケルチタン合金は大きく曲げても戻る一方で、表面の仕上げに敏感な素材とされていました(Robertsonほか、2015、Patelほか、2006)。SMTやタフテックメタルがこれと全く一緒の組成ではないでしょうが、両社共に超弾性合金とあるので、情報として意味はありそうです。つまり、扱いが難しく、ちょっとの間違いや扱いの差で金属疲労や表面の傷による折れやすさが大きく変わる繊細な一面がある様です。
NOTES出典と注記
特許の内容・出願日・消滅日は、J-PlatPatの公報、経過情報、審決で確認しました。理由についての記述は筆者の推測で、各社の公式な説明ではありません。また、筆者は弁理士でも無い、小学生の頃が脳みそのピークだった一応元理系のただの素人です。
MY THOUGHTSだから何なのか
ここからは完全に私の感想です。釣り人が店頭で比べている「操作感」や「穂先の素材」には、やはり特許の事情もそれなりに関わっているようです。そう知っておくと、道具選びの見方が少し変わるかもしれません。
「独自技術」の裏には、それぞれの事情があるのかもしれない。 他社の特許をどう避けるかも、各社が工夫を重ねるきっかけの一つなのだと思います。どちらが優れているかよりも、結局は自分にとって使いやすい道具が一番だと、私は思っています。
特許が切れると、その技術は広がる。 金属穂先は2018年と2023年に壁がなくなり、アルファタックル、そしてシマノが参入しました。作るメーカーが増えれば、釣り人が選べる幅もその分広がっていきそうです。
次の注目点は2031年。 ダイワのジョグ系特許が切れたとき、シマノがダイヤルを出すのか、タッチドライブを続けるのか。その選択で、タッチドライブが「選ばれた」ものだったのかが見えてくるかもしれません。
ダイワとシマノが特許で競い合い、切磋琢磨してより良い道具が生まれるのは、使う側にとってはありがたいことです。これからも、そうあり続けてほしいと思っています。
加えて、新しいものを信じて最初に手に取った人ほど大事にしてもらえるとうれしいな、というのが一ユーザーとしての願いです。(なんでこんなこと書くかって、そう言いたくなる話を聞いて、むしろこの一言を書くためだけに今回色々調べた)
スーパータナコンX500CPのレバーは、子どもの頃の私にも、初めてタイラバを巻く親になった私にも、迷わず使えました。30年経っても、いいものだと感じます。これからも釣り道具の進化を楽しみにしていきたいです。

J-PlatPat(特許番号で照会):特許5698066 / 特許5885316 / 特許5939749(訂正2017-390077) / 特許5641623 / 特許6890399 / 特許7330001
J-PlatPat(竿):特許3716136 / 特許4022124 / 特許4197162 / 特許7466873 / 特許5982258
東京地裁 平成17年(ワ)4581号 / 知財高裁 平成28年(ネ)10100号
シマノ:タチウオゲーム新時代(中間速設定) / シマノ:ステファーノ攻 / ダイワ:SMT TECHNOLOGY STORY
発売年:スポーツライフプラネッツ(スーパータナコン) / 同(タナコン) / 同(シーボーグ)
X500CPの仕様(タイラー君フィッシング) / ダイワ:JOGパワーレバー
超弾性合金の疲労:Robertsonほか「超弾性ニチノール線・管の疲労抵抗と介在物」J. Mech. Behav. Biomed. Mater. 51(2015) / Patelほか「表面仕上げと超弾性ニチノール線の疲労特性」SMST 2006
COMMENTSコメント